避難訓練の「おはしもち」の意味とは?「ち」追加の理由と最新防災教育
全国の小学校や保育園、幼稚園で実施される避難訓練において、長年にわたり定着してきた合言葉「おはしも」。しかし現在、多くの教育現場や消防機関の最新マニュアルでは、末尾に新たな1文字を加えた「おはしもち」へのアップデートが急速に進んでいます。
慣れ親しんだ標語になぜ「ち」が追加されたのか。その背景には、近年の大規模地震や都市型災害の現場検証から浮き彫りになった、子どもの命を確実に守るための極めて切実な教訓が存在します。本稿では、「おはしもち」の正確な意味や誕生の経緯、従来の標語との違い、さらには現場の保育士・教員が実践する効果的な指導法まで、最新の防災教育の視点から徹底的に解剖します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「おはしもち」は従来の「押さない・走らない・しゃべらない・戻らない」に「ち(近づかない)」を追加した最新の避難行動原則。
- 要点2:「ち」が追加された最大の理由は、倒壊の危険があるブロック塀や火災の延焼場所、浸水エリアへの接近による二次被害を防止するため。
- 要点3:教育現場では単なるスローガンの暗記にとどまらず、状況判断力を養う「実践連動型」の指導案やペープサートを活用した幼児向け教育が主流化している。
【基本解説】避難訓練の合言葉「おはしもち」各文字の意味と進化の歴史
教育現場や家庭で共有されている防災標語「おはしもち」は、災害発生時の混乱下で子どもたちがパニックに陥ることなく、安全に避難行動をとるための行動指針を頭文字でまとめたものです。
それぞれの1文字には、災害心理学や避難行動学に基づいた明確な行動規範が割り当てられています。
- お(押さない):避難経路や階段で前の人を押すと、将棋倒し事故が発生して致命的な集団被害を引き起こします。周囲との安全な間隔を保つ合図です。
- は(走らない):校舎内や散乱物がある場所で全速力で走ると転倒のリスクが跳ね上がります。移動は「小走り」ではなく「早歩き(競歩のスピード)」が原則です。
- し(しゃべらない):私語を交わしていると、教員や放送による緊急指示、周囲の崩落音などの重要情報が聞き取れなくなります。静寂を保つことが生存率を高めます。
- も(戻らない):忘れ物やペット、友達を探すために一度避難した建物へ引き返す行為は極めて危険です。過去の火災・津波被害でも多数の犠牲者を出した行動を防ぎます。
- ち(近づかない):火災の煙や炎、倒壊の危険がある建物・ブロック塀、増水した河川、切れた電線など、危険箇所に絶対に身を寄せないための最重要項目です。
この標語は一朝一夕に完成したものではありません。昭和期から平成初期にかけては「お・は・し(押さない・走らない・しゃべらない)」の3文字が標準的でした。しかし、1995年の阪神・淡路大震災などを契機に、荷物を取りに戻って火災や余震に巻き込まれる事故が問題視され、「も(戻らない)」が加わった「おはしも」が東京都消防庁などを中心に普及しました。
さらに2010年代以降、東日本大震災や熊本地震、都市部で発生した震災事故の検証を経て、現場の安全確保に不可欠な要素として「ち(近づかない)」が正式に組み込まれる流れが定着しました。

【徹底追及】なぜ最後に「ち」が追加されたのか?現場データが明かす決定的な理由
従来の「おはしも」で避難行動の基本は完成していたはずでした。ではなぜ、わざわざ「ち」という5文字目を付け足す必要があったのでしょうか。その決定的な契機となったのは、「避難中および避難後の二次災害リスク」の深刻化です。
防災関係機関や消防局の検証資料によると、大地震や火災時に子どもが命を落とす・負傷するパターンには、発災直後の倒壊だけでなく「避難移動中や避難完了後の不注意な行動」が多く含まれていました。
特に「近づかない」が強く叫ばれるようになった背景には、以下の3つの具体的リスクが存在します。
- ブロック塀や自動販売機の倒壊リスク:2018年に発生した大阪北部地震では、小学校の通学路沿いにあったブロック塀が倒壊し、登校中の児童が尊い命を落とす痛ましい事故が発生しました。揺れが収まった後であっても、ひび割れた塀や老朽化した看板、傾いた自動販売機は余震で容易に倒壊します。こうした危険物に「近づかない」意識の徹底が急務となりました。
- 火災現場のバックドラフト・ガラス飛散:火災現場では、急激な空気の流入で爆発的な燃焼が起きるバックドラフト現象や、熱で破裂した窓ガラスの破片が数十メートル先まで降り注ぐ危険があります。「火が見えるから様子を見に行こう」とする子どもの野次馬的好奇心を遮断しなければなりません。
- 河川・側溝の増水と土砂災害:ゲリラ豪雨や台風に伴う水害時、冠水した道路では側溝やマンホールの蓋が外れていても水面から見えません。また、土砂崩れの危険がある斜面への接近も命取りになります。
子どもは危険に対する空間認知能力や危機予測能力が未熟なため、「危ない場所から能動的に距離を取る」という明確な禁止命令を合言葉として刷り込む必要があったのです。これが、防災マニュアルが「おはしも」から「おはしもち」へと進化した最大の理由です。
【徹底比較】「おはし」「おはしも」「おはしもち」「おかしもち」の違い一覧表
防災標語には地域や対象年齢、導入組織によっていくつかのバリエーションが存在します。代表的なものとして「おかしもち(押さない・駆けない・しゃべらない・戻らない・近づかない)」や「おはしもて(て=低学年を助ける/手をつなぐ)」などがあります。それぞれの特徴と差異を構造的に比較しました。
| 標語の名称 | 詳細・構成文字 | 主な採用地域・対象 | 編集部の見解・評価 |
|---|---|---|---|
| お・は・し | 押さない 走らない しゃべらない | 昭和〜平成初期の学校 未就学児(年少向け) | 3文字で覚えやすいが、二次被害防止や戻り行動への抑止力が欠けており現代の複合災害には不十分。 |
| お・は・し・も | 押さない 走らない しゃべらない 戻らない | 全国の小学校・中学校 東京消防庁(標準版) | 阪神大震災の教訓が反映された完成度の高い型。長年使われており知名度は抜群。 |
| お・は・し・も・ち | 押さない 走らない しゃべらない 戻らない 近づかない | 最新の小学校防災教育 保育園・幼稚園(年長) | 現在のデファクトスタンダード。塀倒壊や水害・煙への接近リスクを排除できる最も実践的な標語。 |
| お・か・し・も・ち | 押さない 駆けない しゃべらない 戻らない 近づかない | 一部の自治体・警察・消防 (関西圏や特定私立校など) | 「走らない」を「駆けない」に変えて「お菓子持ち」と語呂を良くした形。幼児の記憶定着率は非常に高い。 |
「おはしもち」と「おかしもち」のどちらが優れているかという議論がありますが、本質的な意味は全く同一です。「走らない(は)」とするか「駆けない(か)」とするかの表現の違いに過ぎず、各学校・園の方針や地域消防の指導要領に合わせて選択されています。

【実態検証】保育園・小学校の指導現場で見えたリアルな課題と工夫
現場の保育士や小学校教員への取材を進めると、避難訓練の現場では「合言葉を言えること」と「実際のパニック時に身体が動くこと」の間に大きなギャップが存在することが分かります。
SNSや教育関係者のコミュニティでも、「子どもたちはポスターの前で『おはしもち!』と元気に復唱するが、サイレンが鳴ると泣き叫んで走り出してしまう」という切実な声が散見されます。この課題を克服するため、現代の指導現場では指導案の設計に大きな工夫が凝らされています。
保育園における指導案の工夫:否定形から「具体的肯定アクション」へ
未就学児、特に1〜3歳の未満児や年少児にとって、「〜しない」という否定の命令形は直感的に理解しづらいという発達心理学上の特性があります。「走らないで!」と言われると、脳内では「走る」というイメージが先行してしまうためです。
そのため、先進的な保育指導案では、「おはしもち」の禁止項目を肯定的な身体動作に変換して指導しています。
- 「押さない」 ➜ 「両手を前でバツにして、自分のスペースを守ろう」
- 「走らない」 ➜ 「アリさんの足(すり足)や忍者さんの足でトコトコ歩こう」
- 「しゃべらない」 ➜ 「お口にチャックをして、先生の笛の音を聴こう」
- 「戻らない・近づかない」 ➜ 「先生の背中だけをしっかり見てついていこう」
また、視覚教材としてペープサート(紙人形劇)や大型絵本、イラストポスターを自作し、「なぜ戻ってはいけないのか」「なぜ近づくと危ないのか」を視覚的なストーリーとして子どもたちに追体験させるアプローチが効果を上げています。
小学校での防災教育:当事者意識を育てるシミュレーション
小学校では、単なる教室内からの整列退場訓練にとどまらず、「休み時間に大地震が起きた場合」「登下校中に火災に遭遇した場合」といった非日常シミュレーションをカリキュラムに取り入れる事例が増えています。
教員の指示が届かない場所で被災した際、児童自らが「ここはブロック塀があるから近づかない」「上履きを取りに教室へ戻らない」と判断できる自己規律を養うことが、現代の小学校防災教育における最前線のテーマです。
【誤解の真相】一般に知られていない盲点と防災標語の落とし穴
防災教育において「おはしもち」は極めて有効な標語ですが、指導者や保護者がその言葉を「絶対的な教条主義」として盲信してしまうと、かえって命を危険に晒すケースがあります。ネット上や現場で混同されがちな3つの盲点を整理します。
盲点1:「走らない」が命取りになる津波・土砂災害
「おはしもち」の「走らない」は、主に校舎内の階段事故や室内での将棋倒しを防ぐためのルールです。しかし、沿岸部での大津波警報発令時や、土石流が迫っている状況では、高台へ向かって「全力で走って逃げる(津波てんでんこ)」ことが最優先されます。「走ってはいけないと教わったから」と歩いて津波に巻き込まれるような事態は絶対に防がねばなりません。「室内では走らない、でも津波や土砂から逃げるときは全速力で高台へ走る」という条件付きの教育が不可欠です。
盲点2:「しゃべらない」の徹底が呼ぶ情報伝達の遮断
「しゃべらない」は指示を聞くための原則ですが、避難経路に障害物を見つけた時や、後ろの友達が転倒した時まで沈黙を守る必要はありません。むしろ「後ろで倒れたよ!」「こっち通れない!」といった危険を知らせる「命の連携の声」は積極的に発するべきです。「無駄なおしゃべりをしない」と「安全確保のための声掛け」を明確に区別して教える必要があります。
盲点3:「戻らない」の葛藤と心理的ケア
子どもが避難途中に「お気に入りのランドセル」「大切にしているぬいぐるみ」「飼っているペット」を求めて戻ろうとするのは、恐怖に対する防衛本能(愛着対象への依存)からくる自然な心理です。これを頭ごなしに叱るのではなく、「命より大切なものはない」「物はまた買えるけれど、あなたの命は一つしかない」という根本的な価値観を、平時の落ち着いた対話の中で繰り返し語り聞かせることが重要です。
【プロの結論】発達段階に応じた防災リテラシーの育て方と選択基準
教育現場や家庭における防災教育は、子どもの年齢や発達段階によって明確に手法を変えるべきです。以下の基準を参考に、最適な指導アプローチを選択してください。
- 向いているアプローチ(未就学児・低学年): 「おかしもち」や「おはしもち」をリズミカルな手遊び歌やイラストで体感させる。禁止理由を理屈で詰め込まず、「先生・親と手をつなぐ」「危険物から離れる」という単純明快な行動パターンを徹底的に身体へ染み込ませる。
- 向いているアプローチ(高学年・中学生以上): 標語の暗記から一歩進み、「なぜこのルールが必要なのか」の科学的根拠(群衆雪崩の力学、バックドラフトの仕組み、津波の到達速度)を学ばせる。自らハザードマップを確認し、通学路の危険箇所(ブロック塀や狭小路)を特定するワークショップが極めて有効。
- 慎重になるべき・避けるべきアプローチ: 恐怖心だけを過度に煽る指導(過激な被災写真の無配慮な提示など)や、例外を許さない厳格すぎるルール拘束。過度の恐怖は子どものパニックフリーズ(足がすくんで動けなくなる現象)を引き起こす原因となります。

【避難訓練の「おはしもち」】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「おはしもち」と「おかしもち」はどちらを教えるのが正しいですか?
A1:どちらも正しく、内容に優劣はありません。「おはしもち」の「走らない(は)」を「駆けない(か)」に変えて「おかし(お菓子)」の響きを持たせたのが「おかしもち」です。通っている保育園や小学校、地域の消防署が採用しているポスターや指導案に合わせるのが最も混乱を防ぎやすいためおすすめです。
Q2:末尾に「て」が付く「おはしもて」という標語もあると聞きましたが何ですか?
A2:地域や学校によっては、「おはしも」に「て」を加えて「おはしもて」と指導するケースがあります。この「て」には「手をつなぐ」「低学年を助ける」「手を口に当てる(煙対策)」などの意味が込められています。集団避難時の共助や火災時の防煙行動を強調したい教育組織で採用されています。
Q3:家庭で地震や火災について教える際、効果的な声かけは何ですか?
A3:「地震が起きたらどうするんだっけ?」と子どもに問いかけ、子ども自身の言葉で「おはしもち」を答えさせるクイズ形式が効果的です。また、家具の固定や非常持ち出し袋の点検を子どもと一緒に行い、「地震の時は自分の命が一番大切だから、おもちゃは置いて逃げようね」と具体例を出して約束しておくことが実践力を生みます。
Q4:津波警報が出ている時でも「走らない(は)」を守るべきですか?
A4:いいえ。津波からの避難時は「走らない」の例外となります。校舎内での移動時は転倒防止のため早歩きが基本ですが、安全な屋外に出て高台や津波避難ビルへ向かう際は、全力で走って逃げることが推奨されます。状況に応じた優先順位を平時から伝えておくことが大切です。
まとめ:災害から命を守る「おはしもち」の実践と今後の展望
避難訓練の合言葉が「おはし」から「おはしも」、そして「おはしもち」へと進化してきた軌跡は、日本が過去の幾多の災害から得た尊い教訓の結晶そのものです。末尾に加えられた「ち(近づかない)」の1文字には、二次災害による犠牲者を一人たりとも出さないという強い意志が込められています。
2026年現在、気候変動に伴う水害の激甚化や首都直下地震・南海トラフ巨大地震への備えが叫ばれる中、防災教育の役割はこれまで以上に高まっています。単なる言葉の暗記で終わらせるのではなく、なぜその行動が必要なのかを家庭や学校で深く共有し、いざという瞬間に迷わず命を守る行動が取れる環境を整えていきましょう。 (出典: 避難 訓練 お は し もち(Yahoo!ニュース))