大分・竹田を守る玉来ダムの治水効果と現在|流水型の秘密を徹底解明
阿蘇山麓の豊かな湧水に恵まれ、「名水の里」として知られる大分県竹田市。この美しい城下町は過去、幾度となく記録的な豪雨による壊滅的な水害に襲われてきました。その悲劇の歴史に終止符を打つべく建設され、本格運用が続く治水施設が「玉来ダム(たまらいだむ)」です。
普段訪れると「貯水池に水がまったくない」という特異な光景に驚く観光客も少なくありません。なぜ玉来ダムには水がないのか、どのような仕組みで竹田市街地を守っているのか。本記事では、完成に至る激動の歴史や建設理由、驚くべき治水効果の現場データ、そしてダムカードや見学観光に関する最新事情まで、現地取材と公式データを交えて徹底解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:玉来ダムは平常時に水を貯めず、洪水時のみ水をせき止める「流水型ダム(穴あきダム)」として大分県竹田市に完成・運用されている。
- 要点2:平成2年豪雨や平成24年九州北部豪雨などの甚大な被害を契機に建設され、環境保全と強力な治水能力の両立を実証している。
- 要点3:ゲート操作が不要な自然調節方式を採用しており、最新の気候変動下でも竹田市街地の浸水リスクを劇的に低減させている。
【2026年最新】大分県竹田市を水害から守る「玉来ダム」の現在と運用実態
大分県竹田市大字志賀に位置する玉来ダムは、一級河川・大野川水系玉来川に建設された堤高52.0メートル、堤頂長222.0メートルの重力式コンクリートダムです。大分県が主体となって整備を進め、2023年3月に竣工を迎えて以降、本格的な治水運用が続けられています。
2026年現在、現地を訪れると堤体の中央最下部にぽっかりと開いた呑口(常用洪水吐き)から、玉来川の清流が普段どおり淀みなく下流へと流れ出ている様子を確認できます。一般的な利水ダムのように広大なダム湖を形成するのではなく、川の流れと生態系を極力自然のまま保つ運用スタイルが確立されています。
大分県河川課の公表データによると、運用開始以降に発生した線状降水帯や台風接近時においても、玉来ダムは想定通りの流量制限を発揮。かつて竹田市中心部を脅かした急激な河川増水を確実に抑え込んでおり、地域の防災拠点として不可欠な存在となっています。

幾度もの壊滅的被害から誕生|九州北部豪雨と玉来ダム完成までの経緯・建設理由
玉来ダムの建設理由を語る上で避けて通れないのが、竹田市が背負ってきた過酷な水害の歴史です。竹田市は阿蘇外輪山からの急峻な河川が合流するすり鉢状の地形をしており、ひとたび集中豪雨に見舞われると水位が一気に跳ね上がる脆弱性を抱えていました。
最大の契機となったのは、1990年(平成2年)7月2日の「平成2年7月豪雨」です。玉来川および稲葉川が氾濫し、死者・行方不明者4名、家屋の全半壊・浸水被害は1,000棟以上に達しました。城下町の商店街や住宅街が茶色い濁流に呑み込まれた光景は、住民の心に深い傷を残しました。
大分県は抜本的な治水対策として、稲葉川の「稲葉ダム」とともに玉来川へのダム建設を決定。しかし、阿蘇くじゅう国立公園に隣接する豊かな自然環境や貴重な魚類・植物への影響を懸念する声、住民の生活再建をめぐる議論が重なり、計画は長期化しました。その後、2012年(平成24年)の「九州北部豪雨」で再び市街地が浸水被害に見舞われたことで、早期完成を求める地域世論が加速。環境負荷を極限まで抑える設計への見直しを経て、着工から約30年以上の歳月をかけて完成に至った経緯があります。
なぜ水がない?「流水型(穴あき)ダム」の構造的仕組みと驚異の治水効果
玉来ダムの最大の特徴は、日本国内でも導入例が増加している「流水型ダム(通称:穴あきダム)」である点です。従来の多目的ダムとは根本的に構造と目的が異なります。
堤体の最底部にゲート(水門)のない放流孔が設置されており、平常時は川の水流をそのまま通過させます。これにより、上流から流れてくる土砂や流木がダム底に堆積しにくく、魚類の遡上や水生生物の移動を妨げないという絶大な環境保全メリットが生まれます。
一方、大雨によって河川流量が一定基準を超えると、放流孔の開口部以上の水は自然と堤体上流に滞留し始めます。電気系統や人為的なゲート操作に頼ることなく、水圧と物理法則のみで自動的に下流への放流量を絞り込む「自然調節方式」を採用しているため、突発的な停電や操作ミスによる人災リスクが原理的に排除されています。

【データ比較】従来型ダム vs 流水型ダム(玉来ダム)
玉来ダムが採用した流水型構造の特質を明確にするため、従来の貯水型ダムとの機能・環境負荷・防災面の違いを下表にまとめました。
| 比較項目 | 玉来ダム(流水型ダム) | 一般的な従来型治水ダム | 治水・地域への影響評価 |
|---|---|---|---|
| 平常時の貯水量 | 0 m³(水が溜まらない) | 常時一定量を貯水 | 水質悪化(アオコ等)や水温変化を防ぐ |
| 洪水調節の方式 | ゲートレス自然調節(穴あき) | 水門開閉による人為的制御 | 操作判断の遅れや機械トラブルのリスクを完全排除 |
| 土砂・生態系への影響 | 土砂が自然流下・魚道確保 | ダム湖に土砂堆積・河川分断 | 下流の河床低下を防ぎ生態系への負荷を最小化 |
| 総貯水容量 | 約395万m³(全量洪水調節) | 利水容量と治水容量を配分 | 空き容量を100%治水専用として活用可能 |
| 維持管理コスト | 低水準(ゲート駆動部なし) | 高水準(ゲート修繕・浚渫費) | 自治体の長期的な財政負担を大幅に軽減 |
【実態検証】竹田市民の生の声と現地レポート|観光・ダムカードの最新事情
竹田市街地で商店を営む地元住民への取材では、ダム完成後の心理的変化を強調する声が目立ちます。「梅雨時や台風の夜は、玉来川の水位計と雨雲レーダーにかじりついて眠れないのが当たり前だったが、ダム運用後は川の増水スピードが明らかに緩やかになり、夜間の恐怖心が格減した」という証言が聞かれました。
また、玉来ダムはインフラツーリズムの拠点としても注目を集めています。ダムサイト周辺には見学広場や展望デッキが整備されており、コンクリート堤体と周囲の雄大な緑のコントラストを間近で観察可能です。
公式ダムカードの配布場所と入手ルート
ダム愛好家や観光客から人気の高い「公式ダムカード」は、以下の拠点で配布されています。現地訪問の証明が必要となる場合があるため、事前の確認をおすすめします。
- 大分県玉来ダム管理所:ダム隣接の管理拠点(平日の指定時間帯に配布)。
- 竹田市役所本庁舎・観光案内所:休日にダムカードを受け取る場合の代替配布場所(※ダムを訪問したことがわかる写真等の提示が必要)。
近隣には国指定史跡の「岡城跡」や、名湯として知られる「竹田温泉 花水月」、湧水群など魅力的な観光スポットが点在しており、治水インフラ見学と地域の歴史・食文化探訪を組み合わせた周遊ルートが定着しています。

一般に知られていない盲点とネットの誤解
SNSやネット掲示板などでは、流水型ダムの特性を誤解した書き込みが散見されます。防災インフラの正確な理解のために、代表的な2つの誤解を正します。
誤解1:「水が溜まっていないから治水に失敗している・無駄な公共事業だ」
これは流水型ダムの原理に対する典型的な誤解です。流水型ダムは「大雨が降っていない時に水がない状態こそが正常」です。平常時に水をゼロにしておくことで、ダムの容量(玉来ダムの場合は約395万m³)をまるごと100%洪水の受け止め枠として待機させておけます。水がないこと自体が、最大の防災力を保っている証拠です。
誤解2:「玉来ダムさえあれば竹田市は絶対に浸水しない」
どれほど優れたダムであっても、施設の想定限界を超える「計画規模以上の未曾有の豪雨」が発生した場合、すべての水を食い止めることは不可能です。また、ダム上流ではなく市街地そのものに降る内水氾濫に対しては、排水ポンプや水路の機能が問われます。ダムは治水対策の要ですが、ハザードマップの確認や早期避難の重要性が消えるわけではありません。
【プロの結論】玉来ダム見学に向いている人・注意が必要な人
玉来ダムは土木技術の結晶であり見応えのあるスポットですが、訪問目的によって向き・不向きがあります。
- おすすめできる人:最先端の土木工学や防災技術に興味がある人、環境調和型のインフラを体感したい人、竹田市の歴史と防災の歩みを学びたい家族連れ。
- 慎重になるべき人:巨大な湖面が広がる壮大な「ダム湖の景観」を期待している人(平常時は湖面が存在しないため)、悪天候時に無理な見学を計画する人。
【玉来ダム】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:玉来ダムの建設費用と工期はどのくらいかかりましたか?
A1:総事業費は約600億円規模にのぼり、平成初期の計画着手から用地取得、環境アセスメント、本体工事、試験湛水を経て2023年3月に完成しました。実質的な構想から30年以上の歳月をかけた大型治水事業です。
Q2:流水型ダムには魚道がなくても魚は上流へ行けますか?
A2:玉来ダムの底部にある放流孔(穴)は川底と同じ高さに設計されており、平常時は川本来の流れが保たれているため、魚類や水生生物は特別な魚道を使わずにそのままダム堤体を通過して上流・下流を行き来できます。
Q3:一般の見学は予約なしで自由にできますか?
A3:展望デッキやダム周辺の広場は、基本的に年中開放されており予約なしで自由に見学可能です。ただし、管理所内部や堤体内部の監査廊などの立ち入りには、事前の公式イベントや特別見学会への申し込みが必要です。
まとめ:気候変動時代における流域治水のモデルケースと今後の展望
大分県竹田市の玉来ダムは、過酷な水害被害を乗り越えて誕生した「命を守る最前線の砦」です。平常時は自然の生態系を損なわず、極限豪雨時には人為的ミスを排除した確実な洪水調節を行う流水型構造は、激甚化する気候変動時代におけるダム事業の先進的モデルと言えます。
ハードウェアとしてのダム完成に安心し切るのではなく、地域全体の避難体制やソフト対策と連携させる「流域治水」の実践こそが、未来の安心を支える鍵となります。竹田の歴史と自然、そして最先端の知恵が融合した玉来ダムの存在は、今後も日本の河川防災の指針として重要な示唆を与え続けるはずです。 (出典: 玉 来 ダム(Yahoo!ニュース))